家族の関係に、何かが秘められている?
「うちは すみとお母さんが トラ年じゃけえ 人気があるのう」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p97)
寅年ということは、1944(昭和19)年において、すみ18歳、キセノ42歳。これは後ほど「第20回(19年11月)」を読み解く際の鍵となる。
「……まあ 遠いけえ 日数がかかる んじゃろう」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p98)
と言いながら、すず、すみ、十郎は、要一の陰膳に手を伸ばしている。キセノは手を出していない。右上のコマは要一の陰膳。要一はこの時点で手紙が出せない状態になっていたのだろう。キセノが手を出さないのは、食べる気にならないから…(キセノが特にそうなるのは、直系親族ゆえだろうか…「冬の記憶(9年1月)」で説明予定の関係であれば、なおのこと)
「手紙書くね すみちゃん」「絶対よ」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p100)
すずとすみは手紙を遣り取りしたのだろうか。(「第40回(20年9月)」の枕崎台風の夜のものも含めて)実は遣り取りしなかったのかもしれない。「第24回(20年2月)」では、すずは江波の浦野家の防空壕の場所も知らなかったのだし。
「おこづかい 好きに使え」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p100)
ここまでの一連のコマのポイントは勿論金額ではなく(※物価は「第13回(19年8月)」中巻p16)欄外の注釈によれば現代の二〜三千分の一くらいとのことなので1〜1.5万円相当という事になるが)
- 「もう六時半よ 急がんと!」とキセノが急かしている状況なのに、すみが出掛けるのを待って、父十郎がすずにおこづかいを渡した、という所にある。
つまり十郎は(すずだけでなく)すみに気を遣ったのだ。何故そうする必要があったのかは「冬の記憶(9年1月)」で説明予定。
「すみちゃん 挺身隊は どんな? / 危ない 仕事なん? 大変なね」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p98)
どう危ないのかというと
「工場では誤って機械で指を切断したり、重い金属板を足の上に落として怪我をするなど、慣れない作業には危険がいっぱい潜んでいた。」
「海を越えて来た少女たちは、いま」http://cpri.jp/1706/
すずにとって、被災する前の広島はこれが最後(そしてその記憶はあるきっかけで呼び覚まされる)
「呉へお嫁に 行った夢 見とったわ !!」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p97)
ハゲが出来るくらい思い悩んでいたすず。呉での嫁としての重労働が夢だといいなと思っていたのか、それとも好きな人と結婚できなかったことが夢だといいなと思っていたのか。それが後者であることが「第7回(19年4月)」で描かれる。
(記憶を呼び覚ます)広電453号
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p101)
453号は江波付近で被災大破し復旧した車両。1946(昭和21)年1月復旧(1969(昭和44)年10月廃車)。
復旧の頃に、すずは広島を再び訪れることに。恐らくその時に見かけて、それをきっかけにこの里帰りの事を思い出したのだろう。
中段左のコマで、頭を抱えながら駅から出てくる人が描かれている
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p104)
恐らくすずより前に切符を買いに来て買えなかった人。すずは広島駅を写生していてこの人に気づき、切符を買い「そびれ」たことにも気づいた。
「最終回 しあはせの手紙(21年1月)」では、色々「そびれ」ながらすずが不在の呉の北條家の様子が描かれる。
すずの想い
「ほ ほうかいね」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p99)
「確か前にも 代わってくれた事 あったよね」と聞かれただけで動揺する、すず。
さらにすみが具体的に水原哲の名前を挙げたので、すずは、彼の事を想って千人針を代わったのではないと(聞かれてもいないのに)強調したいあまり
- 「ウシ年の刺した 千人針で ちいと おとなしうなった方が ええ人じゃったよ!」
と自分を見失って(みウシなって…ウシ年なだけに)意味不明かつ先程の「牛だって強いもん 別に構わんじゃろ!」とは完全に矛盾した事を言ってしまう。
「海軍の機密に 触れてしもう たみたい…」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p99)
すずの動揺には構わず、水原哲の名前を挙げたすみは、すずのさらなる動揺に気づく前にすずの頭のハゲに触れて、そちらの方に気を取られてしまった。
なので
- すずの動揺に気づいてその事を言うのであれば、すずに言われた「陸軍の機密を 知ってしもうた…」の
- 陸軍を海軍に置き換えて「海軍の機密を 知ってしもうたみたい…」となるところを
- ハゲに触れたものだから「海軍の機密に 触れてしもう たみたい…」。
そしてそれをすずに言ったものかどうか躊躇い、取り敢えず「もう寝よ…」(結局言ってしまうが)。
「ハゲが できとるよ」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p99)
とすみに言われる「前」のコマで「え? / なッ / 何? すみちゃん」とハゲしく動揺しているすず。
- つまりハゲがあろうとなかろうと、すずはハゲしく動揺している。
次回「第7回(19年4月)」でp106)「広島からもどって ずっと あの調子じゃが」なのは、だから、ハゲそのものではなく、ハゲの原因である水原哲をハゲしく想うあまりの憂鬱なのである。
- 次回「第7回(19年4月)」で大和に見入ってそのまま落下するのも、水原哲をハゲしく想うあまり、彼が乗船しているかもしれないと思って見入ってしまったから。
- 更新履歴
- 2022/02/25 – v1.0
- 2023/03/13 – v1.0.1(関係する投稿へのリンクと、「次へ進む」のリンクを追加))
- 2023/05/23 – v1.1(「……まあ 遠いけえ 日数がかかる んじゃろう」に「冬の記憶(9年1月)」への参照について追記し、「すみちゃん 挺身隊は どんな? / 危ない 仕事なん? 大変なね」を追記)
- 2023/05/30 – v1.2(「おこづかい 好きに使え」を追記)
- 2023/05/31 – v1.2.1(「『もう六時半よ 急がんと!』とキセノが急かしている状況なのに」を「おこづかい 好きに使え」に追記)
- 2023/09/08 – v1.3(「すずの想い」を全部差し替え)
- 2024/06/05 – v1.3.1(広電453号のリンクを修正)
- 2024/06/06 – v1.3.2(広電453号のリンクを修正)
- 2024/10/27 – v1.4(見失って(「みウシなって…ウシ年なだけに」を追記)
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